第十二話

「あのさ…お前、いつまでそーしてんの?」

目の前のピクリともしない塊から毛布をひっぺがす。急に明るくなった視界は目を刺激したのか、ダンゴムシと化した幼馴染みはもぞもぞと体を動かした。

「…っせえな。関係ねえだろ」
「ひとの布団の中で何言ってんだアホ」
「………毛布」

小さい声で呟くとこっちに背を向けてうずくまってしまった。くっきりと拒否の文字が映る背中に、しかたなく毛布を降ろす。

仰木がこんなんなってもうどんくらい経ったのか。
突然家に来たと思ったら自分の部屋と間違えたのかってぐらい勝手に俺の布団に引き篭り始めた。

まぁ大方の予想はつくけどな。どうせしょうもない理由で先生と喧嘩でもしたんだろう。でなけりゃフられたか。

「んでさっきからそこの携帯にやたらメールと着信がきてるみてぇだけど、出なくていいのか」

ピクリと肩が揺れるのを見逃さない。

「……」
「相手たぶん怒ってんぞ」
「…怒らせてんだよ」

馬鹿か…。

相手は高校生のガキと違い大人なんだから、怒らせようとしてるなんて分かり切ってるだろ。

「…俺って」
「うん」
「めんどくせえ…」
「…いいんじゃねえの?」

適当に返事してると思ったのか、仰木は毛布の隙間から不機嫌そうな顔を覗かせた。

「…」
「喧嘩の原因なんか知らねえけどさ――いいんだよ面倒くさくて」
「…は?」
「お前はいっつも一人で溜め込んで頼んねえから」

俺や成田相手じゃ強がるから。

訝しげな表情をするそいつを無視してベッドの端に腰掛ける。

…他人と完全に分かり合うなんて、所詮無理なんだ。
だから喧嘩するし嫉妬だってする。当たり前のことだろ。

「だからオメェは、もっと自分を甘やかせ。そんで、もっと、周りが引くぐらい欲張りになれっつーの!」

俺の台詞に仰木はポカンと間抜け面を晒していた。

「オラ分かったら謝り行ってこい」
「な、なんでそうなんだよ…」

モソモソ出てきたのを急き立ててドアの方へ追いやる。分かったよ帰るよ、と言って出ていった頃にはすっかり空が暗くなっていた。

空になったベッドに眼鏡を放り投げ寝転がる。

「あ〜あ。やっとうるせーのが帰った」

俺達三人はガキの頃からずっと一緒だけど、あいつが変わるんならそれは、あの先生のせいなのかもしれない。
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